早期離職を「本人の問題」で終わらせないための採用・組織の見直し方
採用できたのに、なぜ辞めてしまうのか
「ようやく採用できたと思ったら、半年もたたずに辞めてしまった」
「面接では意欲的だったのに、入社後は期待したほど活躍していない」
「最近の若手は我慢が足りないのだろうか」
採用に携わる経営者、人事担当者であれば、一度はこうした悩みに直面したことがあるのではないでしょうか。時間と費用をかけて採用した人材が早期に離職することは、企業にとって大きな損失です。
早期離職が発生した際、多くの企業では原因を本人の性格や意欲、能力の問題として捉えがちです。もちろん、本人の事情による離職もあります。しかし、同じ部署で離職が繰り返される、入社数か月以内の退職が多い、特定の上司のもとで人が定着しないといった傾向がある場合、それは個人の問題ではありません。
早期離職は、採用の失敗であると同時に、企業の採用設計や組織運営に潜む課題を知らせるサインでもあります。
重要なのは、辞めた人を評価することではなく、なぜ辞める選択に至ったのか、採用から入社後までのプロセスから特定・把握することです。
1. 採用段階で「求める人物像」が曖昧になっているケース
早期離職の打ち手を考える上で、最初に確認するのが採用基準です。
企業の採用現場では、求める人物像として「主体性がある」「コミュニケーション能力が高い」「成長意欲がある」といった言葉がよく使われます。しかし、これらの表現だけでは、実際にどのような人物が自社で活躍できるのか、明確になっていません。
よくあるケースが、「主体性がある人」を求めて採用したが、入社後は上司の指示どおりに仕事を進めることが重視される職場だった等。これは単純な能力不足ではなく、企業が期待する行動と、本人が力を発揮できる環境の不一致です。
採用基準を設計する際には、優秀かどうかという抽象的な評価点を羅列するのではなく、次のような検証が必要です。
- ・この職場で成果を上げている社員(会社や上司からの評価が高い社員)には、どのような共通点があるか。
- ・入社後、具体的にどのような役割や行動が求められるか。
- ・その役割を果たすために、どのような経験や適性が必要か。
- ・自社の環境で力を発揮しにくいのは、どのような場合が考えられるか。
採用の目的は、選考で評価の高い人を採ることではありません。働き続けられる可能性の高い人(≒活躍する確率が高い人材)を見極めることです。
2. 面接で伝えた仕事内容と、入社後の現実が違うケース
早期離職の原因として見過ごされやすいのが、入社前後の期待値のずれです。
採用競争が激しくなるほど、企業は候補者に自社の魅力を伝えようとします。仕事のやりがい、成長機会、働きやすさ、将来のキャリア。これらを伝えること自体は重要です。しかし、良い面ばかりを強調し、業務の難しさや職場の実態を十分に説明しなければ、入社後に大きなギャップが生まれます。
「裁量を持って働けると聞いていたのに、実際には細かな承認が必要だった」
「チームで協力する職場だと思っていたが、実際には個人任せだった」
「専門性を生かせると思っていたが、想定していた仕事とは違った」
こうした認識のずれは、仕事への不満だけでなく、企業に対する信頼の低下にもつながります。
そこで重要になるのが、現実的な仕事情報の事前提供という考え方です。これは、仕事の魅力だけでなく、ミッションや難しさ・負担、職場の実態を採用段階で伝える方法です。候補者に選んでもらうために情報を都合よく見せるのではなく、双方が納得して入社を判断できる状態をつくる。一見すると応募者が減るように感じるかもしれませんが、採用後のミスマッチを減らすうえでは重要な取り組みです。
3. 入社後の受け入れを、現場任せにしているケース
採用段階では人事部門が丁寧に対応していても、入社後の受け入れは配属先の上司や先輩社員に任せきりになっているケースがあります。
例えば、入社初日に簡単な説明を受け、その後は「分からないことがあれば聞いて」と言われるだけ。上司は忙しく、質問できるタイミングが分からない。何を期待されているのか、どこまでできれば順調なのかも明確ではない。
このような環境では、経験豊富な中途採用者であっても戸惑います。そこで必要なのが、オンボーディング(新入社員が組織や仕事に適応するための支援)です。
例えば、入社後90日間を一つの目安として、次のような設計が考えられます。
入社前〜初日
仕事内容、役割、配属先の体制を確認し、受け入れ側と認識を合わせる。
入社後7日~14日
困っていることや想定との違いを確認し、必要な支援を行う。
入社後30~60日
業務の習熟状況、人間関係、期待役割の理解度を確認する。
入社後90日
本人と上司が成果や課題を振り返り、その後の成長計画を共有する。
業種や職種によって適切な期間や内容は異なりますが、重要なのは、入社後の定着を本人の努力だけに委ねず、組織として支えることです。
4. 離職理由を聞いても、組織の改善につなげていないケース
退職者への面談で、「家庭の事情」「キャリアアップ」「一身上の都合」といった理由が挙がることがあります。その言葉だけで、本当の課題を把握できたとは言えません。
職場への不満や上司との関係を詳しく話さないこともあれば、実際の離職理由は一つとは限りません。仕事内容への不満、成長機会の不足、評価への疑問、人間関係、労働条件など、複数の要因が積み重なって退職につながる場合もあります。
したがって、退職面談の記録だけで原因を断定することは避けるべきです。離職の傾向を把握するには、退職者だけでなく、現在働いている社員にも目を向ける必要があります。
例えば、次の観点で把握していきます。
- ・入社後、どの時期に離職が発生しているか。
- ・特定の部署や職種に偏っていないか。
- ・採用経路によって定着状況に違いがあるか。
- ・本人が認識していた仕事内容と、実態にずれはなかったか。
- ・上司との面談や業務支援は十分だったか。
- ・定着して活躍している社員との違いは何か。
ここで注意したいのは、数字だけを見て結論を急がないことです。ある部署で離職率が高かったとしても、それだけで管理職に問題があるとは断定できません。業務特性や採用人数、雇用条件なども確認する必要があります。離職データは誰かの責任を追及するためではなく、組織を改善するために使うものです。
5. 早期離職を防ぐには、採用と定着を切り離さない
採用は人事部門の仕事、育成は現場の仕事、離職は本人の問題。こうして担当領域ごとに課題を分けてしまうと、早期離職の根本原因が見えにくくなります。
採用時に求めた人物像と、入社後に評価される行動が一致しているか。面接で約束した仕事内容と、実際の業務は一致しているか。上司は新しく入った社員に何を期待し、そのためにどのような支援をしているか。これらは本来、つながっていなければならないものです。そして、そのつながりを確認する役割は、人事部門だけで担うべきものでもありません。
採用する人材に何を期待するのか。どのような組織をつくり、どのような成果を生み出していくのか。その方向性を明確にすることは、経営そのものに関わる判断だからです。
早期離職が繰り返される場合には、採用手法を変える前に、事業・採用・配属・育成・評価が一貫しているかを経営者と人事担当者が一緒に確認することが重要です。
6. まずは、自社の採用を5つの問いで振り返る
早期離職を減らすために、必ずしも大規模な制度改革から始める必要はありません。まず、経営者と人事担当者で次の5つを確認してみてください。
問い1: 自社で活躍している人材の共通点を、具体的に説明できるか。
問い2: 採用時に伝えている仕事内容と、配属後の実態は一致しているか。
問い3: 入社後30日・60日・90日の受け入れと支援が設計されているか。
問い4: 退職者の声だけでなく、定着している社員の声も確認しているか。
問い5: 採用した人材の定着と活躍について、人事と現場の管理職が共通の責任を持っているか。
この5つの問いを考えるだけでも、自社の採用・組織運営のどこを優先的に見直すべきか、手掛かりが見えてきます。大切なのは、早期離職を単発の出来事として片づけず、継続的に改善すべき経営課題として捉えることだと思います。
おわりに|採用の成功は、入社した後に問われる
企業が採用活動に取り組む本来の目的は、人員を充足させることだけではありません。採用した人材が力を発揮し、組織に貢献し、企業の成長につながることです。内定承諾や入社がゴールになってしまうと、その先にある定着や活躍を見失いがちです。
人が辞めたとき、「なぜ、あの人は辞めたのか」と考えることは自然です。しかし、そこでもう一つ問いを加えてみてください。
「なぜ、私たちの会社では、その人が働き続けられなかったのか」
この問いを持つことで、採用基準、職場環境、受け入れ体制、マネジメントのあり方など、これまで見えていなかった改善の可能性が見つかるかもしれません。
