経営者のための人事コラム
Vol.4
2026年10月26日
経営者・人事責任者の皆さまへ

管理職・経営幹部を採用できない際に見直すべきこと

「管理職を採用したいが、良い人材が見つからない」

「経営幹部候補を紹介されても、採用に踏み切れない」

「経験豊富な人材を採用したのに、期待した活躍がなかった」

管理職や経営幹部の採用には、一般社員の採用とは異なる難しさがあります。

候補者の数が限られることに加え、過去の実績だけでは能力を判断しにくい。さらに、現職で一定の責任や待遇を得ている人材ほど、転職によって失うものも大きくなります。

しかし、採用できない理由を「優秀な管理職や経営幹部が市場にいないから」と諦めるのは早計です。

採用要件が曖昧なのか。見極め方に問題があるのか。候補者に自社を選ぶ理由を伝えられていないのか。

同じ「採用できない」という結果でも、原因によって打つべき手は異なります。

管理職・経営幹部の採用で最初に確認したいのは、「誰を採用するか」ではなく、「その人に何を任せるのか」という経営側の問いです。

1.「優秀な管理職が欲しい」では、採用要件にならない

例えば、営業部長を外部から採用するとします。

「営業力があり、部下を育成でき、経営者の考えを理解してくれる人」

一見妥当な要件ですが、これだけでは候補者を適切に評価できません。

営業部長を採用する背景が、社長に依存した営業体制からの脱却なのか、新規顧客の開拓なのか、若手育成なのかによって、求める能力は違うからです。

まず経営者と採用担当者で、次の3点を具体化します。

① なぜ、今そのポジションが必要なのか。

現在の組織で解決できていない経営課題を明らかにします。

② 入社後6か月から1年で、何を実現してほしいのか。

売上の改善、営業体制の再構築、次世代管理職の育成など、期待する成果を言語化します。

③ その実現のために、どのような権限を与えるのか。

人員配置、予算、評価、採用など、本人が判断できる範囲を整理します。

例えば、事業改革を期待して執行役員を招聘するにもかかわらず、重要な意思決定のすべてを社長が行うのであれば、候補者が期待する役割と実態にずれが生じます。

採用要件は、役職名や肩書きからではなく、任せたい仕事と責任から設計する。

これが出発点です。

2.採用条件を増やすほど、難しくなる

管理職・経営幹部の採用では、求める条件が積み上がりがちです。

同業界での経験、一定規模以上の組織のマネジメント、優れた営業実績、事業改革の経験、経営視点、社風との相性。

すべてを満たす人材が理想かもしれません。しかし、条件を増やすほど採用対象は狭くなります。

採用要件を次の3つに分類して整理することをお勧めします。

例えば、営業組織の改革を任せるなら、「同業界で10年以上働いた経験」より、「組織の課題を特定し、改善を主導した経験」を優先した方がよい場合があります。

一方、専門性の高い業界では、特定の知識や経験が不可欠なこともあります。

大切なのは、条件の数を減らすこと自体ではありません。

その条件がなければ、期待する役割を本当に果たせないのか。

採用要件を一つずつ、この問いで検証することです。

3.面接では、実績よりも判断の過程を掘り下げる

「売上を150%に伸ばした」

「30名の組織を率いた」

「大手企業で部長を務めた」

こうした経験は重要な評価材料です。

しかし、それだけで管理職としての能力を判断することはできません。

売上の成長は本人の施策によるものなのか。会社の商品力やブランド力によるものなのか。組織の成果に本人がどのように関わったのか。

面接では、結果だけでなく、そこに至る判断と行動を確認します。

例えば、次の順番で質問します。

「当時、組織の最大の課題は何でしたか」

まず、課題をどう認識していたかを確認します。

「なぜ、その打ち手を選んだのですか」

複数の選択肢から判断した理由を聞きます。

「反対意見が出たとき、どう対応しましたか」

周囲との調整やマネジメントの方法を確認します。

「うまくいかなかった取り組みはありますか」

失敗への向き合い方と、軌道修正の能力を見ます。

「同じ問題が当社で起きたら、どう進めますか」

過去の経験を異なる環境でも生かせるかを考えます。

これらの質問は、候補者全員に共通の評価項目として設定し、面接官ごとに判断が大きくぶれないようにすることも重要です。

特に外部から経営幹部を迎える場合は、成功した実績だけでなく、経営者と意見が対立したときに、どう判断し、どう合意形成を進めてきたかも確認したいところです。

経営者の意見に何でも賛成する人が、必ずしも優秀な経営幹部とは限りません。

4.経営幹部の外部招聘では、経営者自身も見極められている

管理職や経営幹部の採用では、企業が候補者を選ぶだけでなく、候補者も企業を選んでいます。

現職で一定の責任や待遇を得ている人材にとって、転職は大きな決断です。

給与だけでなく、仕事の裁量、経営者との関係、事業の将来性、組織の状態なども判断材料になります。

ここで重要なのは、候補者が転職によって何を実現したいのかを理解することです。

より大きな組織を率いたいのか。経営に近い立場で働きたいのか。自らの判断で事業改革に取り組みたいのか。

動機によって、伝えるべき自社の魅力は変わります。

例えば、事業改革に挑戦したい候補者に対して、福利厚生や企業規模の説明ばかりしても、十分な訴求にはなりません。

むしろ経営者自身が、

「当社は今、この課題を抱えています。あなたには、この領域の改革を任せたいと考えています」

と具体的に伝える方が、候補者の関心に応えられる場合があります。

同時に、経営者がどこまで権限を委ねるつもりなのか、どのような場面では自ら判断するのかも率直に話す必要があります。

経営幹部の採用は、候補者の能力を評価するだけでなく、経営者と候補者が互いの考え方を確認する場でもあります。

良い面だけを伝えるのではなく、難しい課題や制約も共有することが、入社後の認識のずれを防ぐことにつながります。

5.面接の最後に、候補者への期待を伝えていますか

管理職採用では、候補者の評価に集中するあまり、企業側の採用意欲が本人に伝わっていないことがあります。

面接官は「ぜひ採用したい」と思っているのに、候補者には淡々と質問を重ねただけで面接が終わってしまう。

これは、もったいないことです。

私は、候補者を高く評価したのであれば、その理由を率直に伝えることには意味があると考えます。

例えば、

「今日お話を伺って、営業組織を立て直されたご経験は、当社が抱えている課題と非常に近いと感じました」

「最終的な判断はこれからですが、私としては、ぜひ次の選考に進んでいただきたいと思っています」

といった伝え方です。

ここで重要なのは、単に褒めることではありません。

候補者のどの経験を評価し、それが自社のどの課題に役立つと考えているのかを、具体的に伝えることです。

候補者にとって「自分の経験を理解し、必要としてくれる会社なのか」は、転職先を選ぶうえで大切な判断材料になり得ます。

6.人材紹介会社には、求人票だけでなく経営課題を伝える

管理職・経営幹部の採用が難航すると、人材紹介会社を増やす企業があります。

候補者との接点を広げることは有効な場合もありますが、採用要件が曖昧なままでは、依頼先を増やしても問題が解決しない可能性があります。

特に経営幹部の採用では、求人票だけでは伝わらない情報が重要です。

紹介会社には、少なくとも次の内容を共有したいところです。

また、候補者を見送った場合には、「社風に合わない」「経験が足りない」という抽象的な説明で終わらせないことです。

例えば、

「組織管理の経験は豊富だが、今回必要としている事業改革を自ら主導した経験が確認できなかった」

といった具体的な評価を共有する。

こうしたやり取りによって、紹介会社との間で求める人物像の認識を合わせやすくなります。

紹介会社を増やす前に、自社が必要とする管理職・経営幹部の役割が正しく伝わっているかを確認することが重要です。

おわりに|管理職・経営幹部の採用は、経営者自身が考えるべき課題

管理職・経営幹部を中途採用できないとき、見直すのは採用手法だけではありません。

どのような経営課題を解決するための採用なのか。

その課題に必要な経験や能力を見極められているか。

候補者に、自社を選ぶ理由を伝えられているか。

これらの問いを整理することで、取り組むべきことが明確になります。

大切なのは、採用市場にいる「優秀な人材」を探すことだけではなく、自社のこれからを担う人材に、何を期待し、何を託すのかを明らかにすることです。

管理職・経営幹部の採用は、単なる人員補充ではありません。

これからの事業や組織を、誰と、どのようにつくっていくのか。

経営者自身が向き合うべき、大切な経営判断だと考えています。

株式会社インテルノ
内山優
内山優

PROFILE

内山優 株式会社インテルノ 代表取締役

株式会社リクルートで22年間、300社を超える企業の採用・人事支援に携わる。大手企業から中小企業まで、採用戦略の設計・推進、組織課題の解決を支援。東海及び首都圏での組織長、エグゼクティブ領域のコンサルタントを経て、株式会社インテルノを設立。